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静岡地方裁判所 昭和25年(行)6号 判決

原告 福厳寺

被告 静岡県農地委員会

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十四年十二月二十七日別紙目録記載の土地に付爲した訴願裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人等は主文同趣旨の判決を求め、その請求の原因として原告は別紙目録記載の宅地五十四坪の所有者であつて同地は原告寺院の入口に位置し、本來は原告寺院の檀家にのみ貸與していたものであつたが、恩惠的に檀家でない訴外山田善作に貸與して來たものである。ところが清水市農地委員会は右山田善作の申請に基いて昭和二十四年五月三十日自作農創設特別措置法(以下自創法と呼ぶ)第十五條第一項第二号に該当するものとして買收計画を樹立したので原告は同年六月五日同委員会に対して異議の申立てをなし即日棄却せられた。そこで原告は更に同月二十三日被告委員会に対して訴願をなしたところ、同年十二月二十七日付を以て原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、同裁決は昭和二十五年一月十二日原告に到達した。然し右裁決は次の如き違法があるので取消さるべきものである。即ち

(1)  本件宅地の買收申請者山田善作の一家は兼業農家であり、家族の構成は同居親族中農業從事者は善作一人のみであり農業上の所得は昭和二十三年度同二十四年度に夫々金三万一千九十円及び金四万九千四百二十円であるに対し善作の嗣子貞次は昭和二十一年二月十一日以來清水市日本冷凍株式会社清水工場に社員として勤務し、その所得は昭和二十三年度同二十四年度夫々金九万四千三百八十三円及び金十一万四千九百八十一円を得ているのであつて、山田善作一家の主たる所得は農業以外である貞次の給與所得によつているものである。

(2)  原告寺院は近來の清水市の発展、市街地の膨張、市民の激増と共に信徒檀家数の増加を來し墓地の如きも現住職の就任当時百六十坪を以つて足りたものが、現在二百八十四坪に拡張したに拘らず一戸平均通路共僅かに一坪六合に過ぎず、原告寺院の寺格、由諸等有力檀家の多い関係上極めて近く相当なる大拡張の必要があり、順次貸地の回收を得て拡張再建すべく計画を有すると共に、少くとも入口通路の拡張の要に迫られ近く自ら本件宅地を使用する必要がある。

(3)  更に本件宅地は都市内の寺院として門前まで住家の連つている原告寺院の表入口参道に隣接する所謂「寺の門前」に位置し、その坪数は五十四坪の細長く区切られた通常の居宅向建物の敷地である。同地上の建物も一般住宅向家屋であつてその庭地も農業用の宅地として用いられていなかつたもので、附近地区には山田善作以外に農家は存在しない。山田善作自身從來脱穀乾燥等農事作業は他の農家に依頼して行つていたものであり、最近本件宅地上の建物を解体して本件宅地の前方道路を隔てた向側の借地上に農家向構造の家屋を新築して家族の大部分と共に同家に起居して農業経営をなしているものである。

以上の各事情を綜合すれば本件宅地の買收計画は買收不相当の宅地を買收せんとするものであつて違法である。本件裁決はこの違法な買收計画を維持する違法があるので原告はその取消を求める爲本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として本件宅地が原告の所有地であること、原告の主張の日時に夫々主張の如き買收計画の樹立、異議申立、同決定、訴願、訴願裁決のあつたこと、同裁決が原告の主張日時原告に到達したこと、訴外山田善作が本件宅地を借地していることは認めるが山田善作が兼業農家であり、その所得の主たるものが農業以外の所得であること、原告寺院が近く自ら本件宅地を使用する必要のあること竝びに本件宅地がその位置環境上買收不適当であるとの点はいづれも爭う。即ち原告はその所得について農業所得に関しては統制價格を以つて示しているに拘らず貞次の給與所得は何等の制限を受けていないのであるから、かゝる性質の異る金額を以て比較判断することは妥当でなく、又貞次は婿であつて近く世帶を異にする筈であるから山田善作の農業経営の將來にあつては貞次の職業は重要視せらるべきではない。又原告は本件宅地を墓地用地として近く使用を開始する必要があると主張するが、本件土地の如く主要道路に面して住宅地区に接近しているものにあつては取締上到底墓地造成は許可なり難いので少くとも墓地の使用に充てる必要があるとの原告の主張は理由がない。更に本件宅地が寺院の入口に位置することのみでは買收不適当とは云えず、附近に他に農家がないと云う点は否認すると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告寺院が本件宅地の所有者であり訴外山田善作がこれを借地していること、清水市農地委員会が昭和二十四年五月三十日山田善作の申請に基いて自創法第十五條第一項第二号に該当するものとして本件宅地の買收計画を樹立し原告の異議申立に対して同年六月五日これを棄却したこと、同年六月二十三日原告の訴願に対して被告農地委員会が同年十二月二十七日附を以て棄却の裁決をなし、同裁決が昭和二十五年一月十二日原告に到達したことは当事者間に爭のないところであり、山田善作が今次農地改革により田地約二反歩の賣渡しを受け自創法により自作農になつたことは原告の明かに爭はぬところである。

ところで原告は本件宅地の買收は不相当であると主張するので、この点について判断すれば成立に爭ない甲第一、三号証、証人杉山鉄藏、大川昌市、江川政太郎の各証言、証人山田善作の証言の一部(後記不措信の部分を除く)並本件檢証の結果を綜合すれば本件係爭宅地は原告福嚴寺の境内入口参道の東側に接続する狹小の地域で買收申請人山田善作の先代において数十年前同地上の建物を訴外大川仙藏より買受くると共に原告寺の承諾を得て宅地の賃借権をゆづり受け、爾來住宅敷地として賃借使用して來たのであるが、元來右宅地は普通農家の住宅敷地としては狹隘に過ぎ殆んど空地がなかつたので右善作方においては十数年前より本件宅地に近く道路をへだてた向北側の土地約二百坪を訴外江川政太郎より借受け、これに肥料溜を設け又その一部を籾乾場等に使用しもつて自家の農事作業をなし來つたものであること、而して右善作方は妻、娘一人及養嗣子夫婦とその子供一人の家族五人を擁し善作は農業に從事し養嗣子貞次は工場に勤務しもつて一家の生計を立てているものであるが、本件宅地上の家屋が戰災により燒失するや右善作は親類より古材をゆづりうけて本件宅地の一部に物置程度の小屋をたてて自己の仮の住居となし、他の空地は殆んど全部野菜畑として使用すると共に一方前記賃借地上には間口五間奧行五間の木造瓦葺二階建の手廣な農業用住宅を新築して右貞次等夫婦らを之に居住せしめかたがた收穫物の收納その他農業経営の目的にこれを使用していることを認めることが出來る。

証人山田善作の証言中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足るものはない。

以上認定の事実に徴すると本件係爭宅地は右山田善作一家にとつては必ずしも農業経営上必要でない土地であることを推断することが出來る。

而して自創法第十五條第一項第二号により買收さるべき宅地は必ずしも買收農地に密接し、または從属している必要はないけれども、少くとも農業経営に必要な土地であることを要するものであることは宅地買收の目的に替え容疑の余地のないところであるから、これを看過してたやすく買收申請人の申請を相当とみとめて本件宅地について定めた買收計画は失当であり、從つて右買收計画を支持して原告の訴願を棄却した被告の裁決もまた違法であつて到底取消を免れないものと言わなければならぬ。

よつてその他の爭点につき判断を用うるまでもなく原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚敬造 岡田辰雄 小河八十次)

(目録省略)

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